魂の炉
〜少年はいかにして魔術師となったか〜

まえがき

カリフォルニアに移り住んで 2 週間。長かったホテル暮らしに別れを告げ,ようやくアパートに入居できることになった私は,2 人の同期といっしょに寝具を買いに出かけました。彼らのうち 1 人はひとり暮らしをするのががはじめてで,もう 1 人は自分の部屋を潤いあふれるものにすることに対して労力を惜しまない人間でした。そんなわけで,1 人暮らしも 9 年目に突入し,自分の部屋にはパソコンとベッドと D&D だけがあればいいという私は,さっさと買い物を終え,近所の BARNES & NOBLE で立ち読みをすることにしました。

ご存知のように,アメリカには再販制度がないため,ベストセラーや在庫品は何割引かで売られています。なにかお買い得な本はないか――そう思いながら入り口付近をうろうろしていた私の目に飛び込んできたのは,決して見まごうことのないドラゴンランスのロゴ――そう,最新シリーズ「The War of Souls」の第 2 巻「Dragons of a Lost Star 」でした。思わず手にとって値段を確認し,ページを繰ろうとしたところでふと重大な事実に思い当たりました。そう,私はシリーズ第 1 巻はおろか,「Fifth Age」はもちろん,「Dragons of Summer Flame」ですら読み終えていないのです。さらに悪いことには,隣においてあったアーシュラ・K・ル=グインの「アースシー短編集」を読んでみても,地名や登場人物にまったく心当たりがないという始末でした。

そこで私はいそいそと「Wizard of Earthsea(ゲド戦記 1「影との戦い」)」を本棚から抜き取り,これだけでは飽きるかなあなどと弱気なことを考えながら「Science Fiction, Fantasy」のコーナーをうろつきまわりました。そして,Icewind Saga の傑作集とどちらにしようか大いに迷った挙句にレジに持っていったのが,砂時計の瞳と金の肌を持つ青年が表紙に描かれたペーパーバック――すなわち「Soulforge」だったのです。

さて,表紙から判断すればこれは間違いなくレイストリンが主人公の物語です。しかし,ひょっとしたら「レイストリンさえ描いておけばアホなファンが買っていくにちがいない」という編集者の陰謀が隠れているかもしれません。用心深い私は,裏表紙にも目を通すことにしました。

魔術師の魂は,魔法の炉で鍛えられる。

レイストリン・マジェーレ,6 歳。彼を紹介されたとある魔道師は,少年を魔法学校に入学させる。才能と苦悩に満ちた少年は,魔法こそが彼の救いであったのだと確信する。《上位魔法の塔》の魔術師たちは密かに少年を見守ることにした。レイストリンの行く手に広がる闇が,アンサロン全土を覆う影そのものであったからだ。

レイストリンは,魔法使いになるという目標に手が届こうとしていた。しかしその前に《上位魔法の塔》で恐ろしい《大審問》を受けなくてはならない。《大審問》によって,彼の人生はまったく異なるものになるだろう――ただし,生き延びることができれば。

…ふむ。間違いないようです。それではさっそく最初の何章かを読んでみて,面白かったらみなさんに紹介することにしましょう。


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