ヒュールの聖人が説いているのは異常な哲学で,嘘や詐欺に関するものです。国民はいろいろなイモータルを尊敬していますが,主流はボズドガン神[Immortal Bozdogan](〈詐欺師の王〉ロキ[Loki, Prince of Deceit])です。ヒュールにおいては,嘘をつくことが聖なる行為です。なかでもとりわけ聖なる行為とされるのは,新たな信者をボズドガン流に改宗させたり,さらには〈大いなるヒュール〉を発展させたり,外国人や異教徒,「間違った考えを持つもの」を没落させるような行為です。
何世紀にもわたって,ヒュールの人々は繁栄し,その国境をあらゆる方向へ広げていきましたが,北は例外でした。BC 1270 年,大規模なゴブリンの群がウォガー[Wogar]に率いられてヒュールに進撃してきました。彼らは土地を荒らし,たくさんの人々を虐殺し,生き残った者は奴隷にされました。しかし,恐怖の支配は若き聖人ホーサダス[Hosadus]のおかげで終わりを告げました。彼は群の指導者に,群れが探し求めている聖なる青いナイフがあるのは東方,ブラック・マウンテンのむこう――さらには〈大砂漠〉よりも遠いところにあると納得させたのです。ウォガーと群のほとんどは,意外な真実を聞いて奮い立ち,移動をはじめました。残った者はヒュールにとどまり,ホーサダスに仕えました。
これ以後の数世紀の間に,ゴブリン以外のヒューマノイドもヒュールに住み着きました。ときどき,ヒュールの人間と非人間との間で衝突が起こり,互いを攻撃することもありましたが,ふだんは平和なものでした――ただし北方は例外でした。北では蛮族の群があいかわらず断続的な脅威となっていたのです。
AC 600 ごろ,北方の蛮族たちが団結して強大な軍隊をつくりあげ,ヒュールは危うく侵略されそうになりました。街がつぎつぎと陥落していくなか,ボズドガンはホーサダスを生まれ変わらせたことを明かしました。伝説の英雄は,戦争と策略,偽りを組み合わせて,蛮族の群れをヒュールから追い払いました。彼は,街ほどの大きさの要塞化された寺院を創建し,そこを首都としました。ホーサダスが帰還したのち,ヒュールは蛮族の攻撃で失った土地をなんとかすべて取り戻し,ゆっくりとその国境を北以外のあらゆる方向へと延ばしつづけました。
つい最近,〈ヒュールの支配者[The Master of Hule]〉(ホーサダスその人であると信じる者もいます)が手先を〈大砂漠〉の反対側に送り込み,東方の土地を征服しようとしました。彼は AC 1005 にシンドの支配権を得,ここを拠点として,ヒューマノイド,イェニチェリ(ヒュールの騎兵隊),それに〈砂漠の遊牧民[Desert Nomad]〉がダロキンに攻め込みました。ダロキン,カラメイコス,それにファイブ・シャイアの軍隊は,AC 1006 になんとか〈砂漠の遊牧民〉を撃退しましたが,〈支配者〉の軍隊はシンドを占拠しつづけています。